ふじようちえん

園長だより 特別編

2007年04月13日 / 園長だより

園長だより 特別編
便利な時代だからこそ、今、改めて『子どもが育つ場所』を考えてみました。保育・教育スタイル、幼稚園の新たな形へのアプローチ
JR立川駅北口から車でおよそ15分。あたりには視界をさえぎる高層ビルもなく、富士の雄姿さえ地上から間近に見渡せる広陵とした位置に、目指す「藤幼稚園」はある。それが目的で私たちは訪れたのだが、その園舎の佇まいは想像を超えていた。上から見ると、ちょっとゆがんだ楕円形。屋根はほんのわずかに傾斜がある木張りのデッキ、屋根全体が子どもの遊び場になっている。その屋根を、けやきの大樹が3本突き抜けて空に伸びているが、木の回りはネットが架り子どもたちの冒険心を誘う格好の遊び場である。水道の蛇口はありそうで無かった形で自由自在に曲がる形状。また、屋根から雨水が滝のごとく落ちるガーゴイル、そこもまた子どもたちが水を実感し、遊び、学びにつながる場所になっている。電球は、昭和30年代を思わせる裸電球、ヒモで点けたり消したり・・・リモコンスイッチでは分らない電気の道理を見せること、居ないときは消すこと・・・この園舎は、便利さよりもその行為をせざるをえない状況を作り出している。それが、しつけ、くせづけに繋がっています。例えば、靴を揃えること、開けた戸を閉めること、電気を消すこと・・・子どもへのくせづけを建物自体がしてくれるようになっています。また、南園庭には砂を一面に敷き詰めた砂場があるが、囲いはなくロングビーチと呼んでいるぐらい長く大きい。園庭側、外側共に壁はすべて厚さ8mmのペアガラス、両面フィルムはりで、何処からでもそれぞれの活動が見渡せる。教室ごとの間仕切りは、木製箱型ロッカーを利用したパーテーションで区切られている。新園舎と言うと新品の備品を想像するが、ロッカー、靴箱等36年間使ってきた備品を大切に使うと言う姿勢で各クラス内を作っているとのことです。
そもそも、築36年の木造園舎は、老朽化で雨漏りも日常、そして、中越地震の状況を見て防災、防火の面から、『子ども達に何かあったら・・・といつも心配でした。』と、加藤積一園長は語る。いろいろ検討を重ねたんですが、設計の段になるとスペックや機能ばかりに目が行き、『本当にそれで子どもの育ちに貢献できるのか?』疑問を持ったそうです。ある方のご紹介で、アートディレクター佐藤可士和氏に出会ました。氏も“教育や医療と言うデザインがまだ入っていない世界をデザインしたい”と思っていたし、園長も、“これからの時代に育つ子どもの過ごす場所”を何らかの形で表現したかったこともあり、すぐに意気投合、このプロジェクトが始まったとのことです。佐藤氏の『園舎が巨大な遊具』と言うコンセプトを受け、子どもは “遊びが仕事、遊びが学び”“遊びながら子どもは育つ”と位置付け、その育つ中味は、幼児期でなくては得られない実感、実体験を大切にして行くこととした。やがて、それがより確かな学びにつながれば・・・そして、それは、やがて自立した人間、責任ある社会の一員となる為にはこれからの社会では特に必要なことであると考えたとのことです。
手書きの楕円形園舎という形ばかりが伝えられますが、実は、ふじようちえんは35年前からモンテッソーリ教育を導入し、その精神を大切にしながら教職員研修を積んでいる幼稚園です。『子ども自ら育つ力』をより発揮出来るようにと言う子どもの自主性を大切にする思いが根底にあればこそのこの園舎という感じです。まさに、理念と行動、教育と建物、自然と子どもが一体化、つながりを持った例と言えます。
『特別に何かがあると言うことではないのです。“ごく普通で、飾らず、でも本物でありたい”という気持ちだけなんです。子どもが育つ場所として、今の時代、何が大切かを考えた結果、私どもはこういう園舎になったと言うことです。各国、各地域にいろんな園舎があってもいいと思いますし、それもいろいろな未来が創られるようで面白いですよね。』と加藤園長は言う。
学校法人 みんなのひろばの事業理念として『幸せな未来をつくること』を掲げ、教職員の仕事を『幸せな未来をつくる人を育てること』と位置付け、常に、シンプルに『いま、あなたのその行動、言葉、立ち振る舞いは、“子どもの育ちに貢献しているか?』をみんなで心がけているとのことです。
 最後に、「子育て支援については?」という問いに「幼稚園教育も子育て支援、子どもの育ちへの一つのアプローチということでは同じで、全部繋がっていると思う」。だから、「親子教室」「未就園児のプレスクール」「認証保育所」「預かり保育」「スマイルシェフ」「スマイルファーム」等々運営しています。が、そういう一連の育ちの中でも特に中核を成すのはの幼稚園であり、幼児教育であると思う。世の中で、“幼稚園の新たなる立ち位置”、それも人として重要な“育ちの中核としての幼稚園”づくりを求めて今後も活動は続く。
以上、東京都私立幼稚園連盟の会報(4/1号)に掲載された記事です。(恐縮ですが、記事風に書いてありますが、原稿をもとに私が全面的に内容校正させて頂いたものです。加藤)