ふじようちえん

2011.12月22日 園長だより

2011年12月22日 / 園長だより

藤幼稚園のご父母のみなさまへ

 年の瀬が近くなり、慌ただしさが一段と増してきました。
皆様、いかがお過ごしですか? 寒さが、さらに強まる時期、お体ご自愛下さい。

 冷え込んだ冬の朝、「よいしょ!! よいしょ!! よいしょ!!・・・」子どもたちの元気な声が幼稚園に響いています。『いつまでも続く掛け声に、振り上げた杵を止めることが出来ず、ついつい頑張ってしまいました』と、筋肉痛の腰を手でたたきながらお父様たちが話しています。しかし、その横顔には、どことなく満足感も伺えました。
 早朝より、ご父母の皆様にご協力を頂き、たくさんのお餅をついたり、丸めて頂き、本当にご苦労様でした。お陰様で楽しく、そして美味しく、無事にお餅つき大会を行うことが出来ました。心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

 先日、先生方に、『お餅つき、したことがありますか?』と尋ねたら、幼稚園か、地域の子ども会で経験したと言う先生が多くいました。つまり、幼稚園で体験をしないと一生お餅つきを体験しない、と言うことなのだと想像できます。
 改めて考えてみると、現代社会、このような歳時記、日本の文化を伝えられるのは、少し大袈裟かも知れませんが、幼稚園だけなのかも知れません。特に、全国各地域に存在する幼稚園は、その地域、地域の文化、風習、伝統等々を、体験し、次世代に伝える場として大事な役目があるのではないのでしょうか。私も歳時記、行事は、大事にしたいと思います。美味しい伝統行事は特にですよね。

≪幼児教育こそ国をつくる力≫         
 今回は、幸運にも、雑誌『致知』2011年11月号に掲載された私の文章をお伝えさせて頂きます。

「遊びと学びと建物が一体となった世界的にユニークな建物」
このような評価をいただき、昨年、私が園長を務めるふじようちえんはOECD(経済協力開発機構)が主催する学校施設の好事例最優秀賞に選ばれました。
 2007年に園舎全体をリニューアルした当園は、広い芝生の園庭を囲むように建てられたドーナツ型の平屋の園舎に、約600名の園児たちが思い思いに遊んでいます。
 1971年開園、園舎は築30年を経過した頃から雨漏りもしてきました。そのような状況下で、2002年に新潟県中越地震が発生しました。そのニュースをテレビで見ていた時、「子どもたちに万が一のことがあったら……」という不安が私の危機感を煽り、園舎改築を決めたのです。
 さっそく知り合いの建築関係者に設計を依頼したのですが、私にはどうしてもしっくりきませんでした。私の考えていた「素朴で本物」「自然を感じ、自然とともに成長する」というコンセプトが感じられなかったのです。結局、折り合いがつかず断念しました。旧園舎は、武蔵野の面影を色濃く残す豊かな自然に包まれ、どことなく懐かしい、あたたかな空気が流れていました。そんな雰囲気を気に入ってくださって、入園を決める親御さんも多かったのです。だからこそ、目に見えない大切な空気を残しつつ、これからの時代に子どもたちが育つ環境へより良く変化していきたいという思いが胸の内にありました。
 そんな時、偶然出会ったのがホンダ・ステップワゴンのCMやSMAPのCDジャケット等のデザインを手掛けたアートディレクターの佐藤可士和さんでした。
可士和さんの、「幼稚園や病院という“デザイン”の概念がまだ入っていない世界をデザインしたい」との言葉に、私たちはすぐに意気投合。建築家の手塚貴晴・由比ご夫妻の協力もいただき、改築プロジェクトは始まりました。
「子どもは遊びが仕事、遊びが学び」という観点で、私が溢れんばかりの想いを伝える。それを可士和さんが整理して必要な情報を抽出し、手塚さんが形にしていく。
そのように三位一体で進めていった結果、「園舎そのものが巨大な遊具」というユニークな園舎が完成しました。
 園舎には子どもが育つための様々な仕掛けが施されていますが、中でも皆さんが注目されるのは、園舎の屋根の上が円形の運動場になっていることです。
ある時、可士和さんが旧園舎を眺めながら、「あの屋根の上を子どもたちが走ったら気持ちいいでしょうね」と言いました。「いや、危なくてそんなことはさせられませんよ」と私はすぐに否定したものの、よく考えてみると自分の小さな頃は、しょっちゅう木登りをしたり、近所の家の屋根で遊んだりしたものでした。
 手塚さんは当園のコンセプトを「ノスタルジックフューチャー(懐かしい未来)」と表現していますが、私が育ってきた昭和40年代の古きよき日本の姿を、安全性を確保した形で現代流にアレンジした一例が、「走れる屋根の上」です。子どもたちは、この屋根の上で全力疾走をしたり、鬼ごっこをするなど、とにかく元気いっぱいに走り回ります。一周は約180メートル、円形なので行き止まりがありません。そこを一日に30周したという園児もいるほどで、30周では5キロ以上にもなります。
ある大学生が、サッカー教室も行っている都内の幼稚園児と当園の子どもたちとの1日の運動量・歩数を比較したところ、驚くことに当園のほうが3倍も多かったという報告もなされています。
 大人からの強制も特別な遊具もなく、子どもたちが自分の意思でこれほど走り回りたくなる環境は、いまの都会の生活には存在しないのではないでしょうか。私たちは高度経済成長期以降、便利さを追求しオートマティックな社会を築いてきました。
手を出せば水が流れ、部屋に入れば電気がつく。自ら身体を動かし筋肉を使わなくとも、自動で何でもしてくれる世の中です。果たしてそれは本当に豊かな社会といえるのか?よく考えてみると、いまの社会は子どもが育つにはとても「不自由」な環境だと思うのです。自然の中に身を置き、本物の土や木、水や空気、一面に広がる空や風を感じながら、石に躓(つまづ)き転んだり、カブトムシを触って噛まれたりする。そうした実体験を通して、子どもは育っていくものだと私は考えています。
 私たちのミッションは「幸せな未来をつくること」です。いまここに通っている子どもたちには、将来、新しい世界を築いていってほしい。幼児教育はそのための土台づくりの場です。私は常日頃から、「“How to”で生きるより“To do”で生きる子どもを育てよう」と話しています。子どもには、処世の術を教えるよりも、自分は何をしたいのかという意志を持たせることが大切だと思うのです。

 私は,幼児教育には国をつくる力があり、世界を形成する力があると信じています。
今はまだ小さな力でしかないかもしれませんが、ゆくゆくは社会を変革する大きなエネルギーになると信じて、子どもたちの育ちに役立つ「道具」のような存在として
生きていきたいと思います。

 本年も大変お世話になり、ありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願い致します。来たるべき新年が、皆様の願いが叶う年となりますように、お祈り申し上げています。

園長だより vol .103 2011.12.22